十二月のボクたちは
 

 

もはやこの時節の定番となったは、クリスマスのにぎわいで。
ともすれば カボチャのお祭りも終わらぬうちという気の早さ。
モニュメントの如くの大きくて、イルミネーションも目映い壮麗なツリーが、
競い合うように早々と、繁華街には据えられて。
陽が落ちかかるのが早くなった初冬、
肩を縮ぢこめてのついつい足早になる客足を、
引き寄せ、引き留めるのに一役かっているかのよう。
凍えるような冬の夜空にいや映える、
冴えたイルミネーションばかりでは勿論なくて。
以前からのそれこそ定番、
赤に緑、白に金という、クリスマスならではなカラーリングも華やかに、
モミの木に映えるは、星に天使にベルにヒイラギ、
雪の結晶も綺羅らかな、様々なオーナメントや金銀のモールなどなどが。
ご婦人向けのアクセサリーやお子様向けのプレゼント、
はたまた愛らしいスィーツやらを引き立てるディスプレイとして飾られていて。
聖ニクラウスさんのことも靴下の由来も、ベツレヘムの星も。
キリスト様がお生まれになった日だという、
宗教的な意味合いさえ、一向に判らずとも構わない。
年末の慌ただしさから一晩だけは逃れてもいい言い訳として、
この催しだけは、横文字かぶれの流行ものからは完全に脱しての、
その定着を確たるものとしているところ。



小中学校はやっとの先日だが、
高校生や大学生はとっくの昔に冬休みに入っており。
プレゼントの品定めか、はたまた資金調達のためのアルバイトにか、
十二月の繁華街へと群なして繰り出す彼らによって、
そのにぎわい、日頃以上の拍車がかかってもいる模様。

 “うわ〜、すごい人出だなぁ。”

学生アメフトの世界では、
激戦連戦の続いた秋が去ると同時、
雌雄を決する頂上決戦に関わるチーム以外は、
はや次のシーズンに向けての何やかやへ、その身の置きどころを移している頃合い。
瀬那の属するR大デビルバッツも、
入れ替え戦を征した瞬間から今期リーグは幕を下ろし、
来期の驀進へ向けてと目標の書き換えが進行中。
それらに鳧がついての戻った実家では、
さっそくのように母から大掃除を手伝わされているものの、
今日だけは先約があるからと、この身の拘束を免除されており、

 “………あ。////////

その先約のお相手は、いつものように先に来ておいで。
丁度快速が立て続けに到着したせいもあるけれど、
ダウンやフリース、レザーにツィード、
暖かく着膨れした人々があふれてて。
冬の陽が照らす、そりゃあ広々とした空間を、
もう少しで埋め尽くすんじゃないかというほどに、
人出でごった返しかかっている、駅ビルからモールまでの空中交差。
雑踏の端のほうの、周辺案内版の据えられた手摺り寄り。
そんな目印があるせいか、待ち合わせる人が他にも たむろしていて。
でもね、あのね? その人だけは一目で判る。
奇抜なカッコをしているでなく、
チームメイトの誰かさんのように、
落ち着きのない言動でやたらと周囲からの注目を一身に集めているでもなく。
それでも、あのね?
視野の中 姿が掠めれば、もうもうその目が離せない。

 “はや…。///////

一際上背があって、姿勢もピンと張っていて。
濃色のコートがよく似合う、男臭くて精悍な面差しや風貌。
その雄々しさを隠しもしない威容がまた、
今時には稀なくらい、凛とした存在感となっており。
見つけたことへとホッとするのと同時に、
得も言われぬ安堵とそれから…身の裡
うちがほわんと暖かくなる何か、
感じてしまって仕方のない人。

 「…進さん。」

声をかければ、涼やかな視線がこちらを向く。
切れ長の目許がほのかに和らいで、
小さなセナへ“おいで”というお顔になる。
かつては王城高校のホワイトナイツというチームにいた最強ラインバッカー。
今はU大へと進学し、やはり最強最速の冠をほしいままにしていて。
でも、ピッチから離れれば…少なくともセナと一緒にいるときは、
優先順位を変えて下さるよになった、優しい頼もしい恋人さんで。
今はこのQ街まで出て来なくとも、実家のほうにこそご近所となっている間柄。
それでも今日は、お買い物の約束をしたのとそれから、
もう一人ほど待ち合わせのお仲間がいる関係で、
ここへの集合と相なった彼らだけれど。

 「あのあの、進さん。さっき桜庭さんからメールがあって、少し遅れると。」
 「…。」

セナからの伝言へ、
口を衝いての一言こそなかったものの、
おやと、心なしか眉が上がった彼だったのは、
何で自分へ知らせてこなんだかという意があってのことだろう。
今日の待ち合わせが此処でとなったその理由の も1つ。
進とは王城ホワイトナイツでのチームメイトだった人。
彼もまた相変わらずにアメフトも続けているその上へ、
芸能人のワラジも履いたままの桜庭とも、此処で落ち合う段取りとなっており、

『あ・じゃあ、あの…ボクはご遠慮しましょうか。』

桜庭もまた、進とは別の進路を選んでしまったものだから、
以前のように日頃から一緒にいる身ではなくなっており。
せっかくの空き時間が出来たのでと、旧友同士で積もるお話とかあるのかも。
そんな風に気を回したセナへは、だが、

『…そういうものではないから。』

電話では告げにくいややこしい事情ででもあったのか。
小早川が気にすることはないとか何とか、
言葉を濁しての、詳細までは聞かせてくれなかった進さんだったのだけれども。
相変わらずにそういうところ、不器用なままな彼だからそれで、と。
こんな風に…待ち合わせの連れであるセナへと告げもしないでの、
とっとと先へ行ってしまったかもしれないからと。
桜庭もそこいらは重々把握していてのこと、

 “進さんではなくのボクに、メールして来たのじゃあないかしら。”

そうと思えるから、あのね?
セナとしては、さして不審だとは感じてなくて。
少しだそうですから待ってましょうねと、目許を細めて微笑って見せて、
それから…あのあの。

 「…。/////////

メールは毎日交換していたが、
お顔を合わせるのは久々だなぁと、今更思う。
セナの側がR大のクラブハウスで合宿していたからで、
よって、近所のジョギングコースでの、ランニングでのお顔合わせもままならなくて。
“しかも、私服姿だし。///////
襟やら肩口やらのデザインが大ぶりの、シンプルでごつりとした印象のコートは、
上背がある彼だからこそ、惚れ惚れするほどよく似合っていて。
いまだに…可愛らしい色合いや素材の、
ダッフルコートあたりを勧められてしまうよなセナにしてみれば、
随分と年齢や立場に開きのある“大人”に、
一足も二足も先に なってしまわれたようにしか見えなくて。
ああ、手も相変わらずに大きいな。でも、
「進さん。」
「?」
「手ぶくろしないで平気ですか?」
今日は昨日の雨の余韻があってか、空気がちょっぴりつるつるしていて冷たいから。
進さんから注意されることのないように、セナの側は完全防備、
手ぶくろもしているし、マフラーだって薄いのをコートのポケットに常備して来た。
でも、人へと注意をするくせに、進さんが手ぶくろするのは、
ジョギング中以外では とんでもなく寒くなってからのこと。

 「寒くないですか?」

ああと持ち上げたその手を、ぱふりと左右から挟み込むように捕まえたけれど。
「あ・これじゃあ。」
手ぶくろ越しじゃあ判らないからと、そのまま引き寄せての頬へまで。
指先を伸ばさせるようにして、手のひらを開かせてから、
どーれと伏せさせれば、ほらやっぱり。

 「やっぱり冷たいじゃないですか。」

真ん中は温かだったけれど、指先はひんやりとしかかってた大きな手。
人にばっかり世話焼いて、
でもでも晒してて乾いて堅くなってしまっての、
動きが鈍くなっては困るのは進さんも同じでしょうにと。
上目遣いになってのお説教をしてくるセナへ、


  ―― ずっと装備したままなジョギングと違って、
      つけたり外したりをするうちに必ず失くすものだから、
      普通の外出時にはあまり使わない…のだと。

   「………。」


用意していた弁明が、頭の中で空回り。
手ぶくろ越しでも判るほど、相変わらずに小さな手なのと、
その手で すいと導かれた先の頬が、何とも柔らかな感触だったのが。
仁王様から思考を全て、いとも容易く奪ってしまったらしい。

 「進さん? …あっ。あああの、えっとっ。//////////

急に黙りこくってしまわれて、どうされたのかなと思うと同時、
自分の取ってた行為に はたと気づいての、
あわわっと遅ればせながら慌てたセナだったりするあたり。


 「…慣れがあるやらないやら、どっちなんだろね、あの二人の場合。」
 「知らねぇよ。」


何だったらWデートってのはどう?
俺にそんなに帰って欲しいのか。
あっあっ、嘘うそっ。すぐに済むから此処で待ってて下さいと、
何だかごちゃごちゃ、お連れさんと言い合ってからのご登場、

 「やあ、お待たせ♪」

やっと姿を見せた、ハーフコート姿のアイドルさんに、
救われたような…もちょっと遅れてくれても良かったような。
そんな微妙なお顔をした二人だったのへこそ、

 “…正直な奴らだねぇ。”

少ぉし離れたところからの覗き見だけでも十分判ると、
こちらは苦笑が絶えない悪魔様。
脅迫手帳に記したところで、進には動じさせるネタにはなるまいし。
セナに至っては…人目につくところでは気をつけなきゃですよね////////と、
真っ赤になるまではともかくも、

『でもでもつい、周りが見えなくなるっていうか。
 蛭魔さんも桜庭さんと居て、そうなることってありませんか?』

そんな風に身を乗り出して来の、
余計なお世話なカウンターを、喰らわせるようになって来た強わもので。

 “無自覚のうちにってのがまた、恐ろしいよな。”

あれが幸せボケってやつならば、自分も用心した方がいいのだろうか。
そういや時々、
あいつにしか通じないからと桜庭の話を持ち出すと、
妙に和んだ顔しやがってよ。
それへと釣られかかってのこと、
惚気もどきを口走りかけた醜態が、どれほどあったか知れやしない。

“あの、頬っぺへ手ぇ伏せるのだって…。”

練習中に やはり無意識に繰り出して、
ラインとリードブロッカーを兼任している頼もしき糞長男を、
真っ赤にさせた上で総身を凍らさせたほどもの、必殺の飛び道具だってこと、

“威力までもを ちゃんと把握してやがるんだかどうだか。”

相変わらずの天然さんなことへと、困った奴だとの苦笑を濃くしつつ。

 「うん。ちょっと渡すものがあっただけなんだ。な? 進。」
 「………ああ。」

大きな男衆が二人掛かりであたったは、実は実はセナへのお誕生日の贈り物。
どんなものがいいのかとの相談を受けてから、
実は先週、下見に来てた。
可愛らしくて暖かそうな、北欧産の手編み風のセーターがあったので、
じゃあサイズは蛭魔経由で訊いとくからと打ち合わせ、
お店へ申し込んでの発注していただいて、今日がその受け取り日。
ネット発注というややこしい手筈が到底出来そうにはなかった進だったので、
そこいらを代わってやったは良かったが。
受け取りの伝票やら何やらはどうしても、
大事を考えれば手渡しするしかないものなのでと、
こうやって逢う機会を作ったまでのこと。
それを渡しにという、こっちの彼らにしてもちょっとした寄り道なんだけど。
それを果たしての戻って来るだろう色男の鼻先へ、

“さあどんなタイミングで突きつけてやろうかな…♪”

ここまでは、他人の恋路のかあいらしさへの傍観者。
共犯者として余裕でいられた彼らだけれど、
ここからは…打って変わって我が身へのお話。
聖夜への招待状を、さぁてどうやって贈ろうか。
身のうちに沸き立って、さわさわと騒ぎ出すざわめきに、
うっとりと目許を細める悪魔様。
さぁさ早く戻って来ないと…こんな美味しいお顔、見逃す手はないぞ、桜庭くんっvv
そしてそして、


   どちら様へも、
Merry Xmas!





  〜Fine〜  07.12.23.


  *進さんからの贈り物、
   ノルウェーかフィンランドかの、最高級ウールのセーターだったりし、
   セナくん、どっひゃーっと眸を回すといいですね。
   勿論のこと、そんなとんでもないもんだとは知らないまんまの大魔神様。
   先週いっぱい、
   たまきさんのコネでサンタの扮装をしてのバイトをしていたとか、
   そういう裏話もありそうで、想像するだけで笑えます。

   片やのお二人の方は方で、
   今年はクリスマスも年末年始も体が空いてること、
   そうか とうとう干されたかとからかわれたものの、
   だったら付き合えとの、真っ赤になってのご招待を、
   どこで囁いてもらえる桜庭くんなのでしょね。
(くふふvv)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv **

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